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服の格を決める裏地。高級素材・キュプラ(ベンベルグ)の生産を担う富士吉田を訪ねて

メンズスーツを中心に、コート、カジュアルジャケット、パンツ、レディーススーツなど幅広いアイテムの「副資材」を取り扱う室谷株式会社。

メンズスーツ向けでは業界シェアNo.1で、着心地を左右する重要な存在である副資材を、豊富なストックを活かし、機能性や時代性を取り入れたオリジナル商品も含めて提案しています。

今回は、同社が新たに提案する厳選した裏地コレクション「裏地百選」の中でも、特に一推しの素材であるキュプラ(ベンベルグ)をご紹介。生産を担う富士吉田の工場を訪れました。

 

 

キュプラ(ベンベルグ)とは

コットンリンターを原料とする再生繊維です。コットンリンターとは、コットンの種の周りのうぶ毛のことで、通常、綿糸としては使われなかった部分を精製・溶解して糸にしています。

 

歴史は意外と長く、ドイツ・ベンベルグ社が開発した技術を1928年に旭化成が日本に導入し、独自の技術で生産性を高め、現在では旭化成が世界で唯一のキュプラ(ベンベルグ)メーカーになっています。

キュプラは、繊維の一般名称で、旭化成のキュプラのブランド名が、ベンベルグとなります。

 

 

キュプラ(ベンベルグ)の長所

 

1、滑らかでキメの細かい肌触りとドレープ性

キュプラの一番の長所は滑らかでキメの細かい肌触り。これは、キュプラの特徴である細く真円に近い繊維の断面に起因します。コットンリンター由来でありながら、天然繊維のような太さのムラがないため、他にはない心地良い肌触りと生地のドレープ性を生みだしています。

 

2、湿気をコントロールする吸湿性

衣服内の湿気をコントロールする吸湿力に優れており、シーズンを問わずムレやベタつきを抑えた着心地を実現します。これは、湿気を吸い、水分を多く含むことができる結晶構造になっているためです。夏は熱を水分と一緒に外へ逃がすことでひんやりと感じ、冬は熱を逃がしにくい素材と組み合わせることで、体から湿気を吸収するときに発生する熱エネルギーを蓄え暖かさを生みだします。また、水分を多く含むため、静電気を逃がす性質があります。

 

3、深みと鮮やかさのある多彩な色表現

真円に近い繊維の断面と吸水性に優れた素材のため、染色の表現が非常に豊かに実現できます。

染料を吸い上げるスピードも速く、短時間で濃く染まります。また、美しい光沢を備えていますので、染色の美しさと共に多彩な表情を作り出します。

 

 

高級織物を得意とする山梨・富士吉田

 

江戸時代に独特の光沢や風合いで盛えた高級織物・甲斐絹(かいき)をルーツとする富士吉田。その技術を継承しており、今もなお先染め、高密度、細番手を得意とする産地です。

 

コットン由来でありながら、天然素材とは異なる特徴を持つキュプラ(ベンベルグ)。生地としてのメリットの反面、製造工程には多くの手間と職人の技が必要で、各工程で細心の注意を払ったバトンタッチが重要になります。

 

元々、繊細な素材の扱いが得意だった富士吉田には、先染めに必要な富士山の豊富な湧き水や、家内制手工業を中心とした細かな分業体制があるという背景がキュプラ(ベンベルグ)裏地の生産を可能にしています。

 

ここからはキュプラ(ベンベルグ)裏地の生産に携わる工場と技術をご紹介。見た目の美しさの奥には、多くの工夫と職人の技が詰まっています。

 

 

撚糸 新地撚糸

 

撚りの役割は、糸を強くすること、風合いを出すことがメインです。新地撚糸さんではカセとソフト巻きの2種類を行なっています。後の工程がスムーズに進むためにも高い精度が要求され、特に先染めではより重要となります。

 

この後に続く経糸を整える整経では、多くのボビンから糸を順番にとり少量ずつ巻いていく部分整経が行われるため、ミスした糸があれば何度も混ざってしまうことに。また柄物が多い織りの工程では、ジャカードやドビーなど、糸が上下に動くため、それに耐えられる均一な強さを作る必要があります。

 

 

「見た目に劇的な変化のない工程だけれども、人の目と手と経験が物をいう。」

 

撚り自体は機械が行う単純な作業でも、生地になったときは均一さが大切になるため、毛羽立ちが出ないよう定期的な点検が欠かせません。また、天気や湿度によっても影響があるため、最後は人の力が必要不可欠。手をかければ良くなることもある反面、同じ仕上がりを維持するのはとても大変です。

 

 

カセの表と裏の区別をつける印。後の糸染めの工程の下準備です。

 

 

 

 

ビーム整経 奥脇織物整経工場

 

機屋で生地を織り上げる際の経糸を作る整経という工程。一番大事な役割は、糸の配列を整えることで、ただ順番がわかるようにするだけでなく、機屋さんがより織りやすいよう糸のテンションを均一にし、また後のミスを避けるための工夫もされています。

 

ここでも大変なのが、キュプラの吸湿性。時期によっては乾燥するので加湿する必要があり、糸の重さだけでなく天気や湿気に応じて重りを調整し、糸のテンションを調整しています。

 

 

ビームへ巻き取る際は、端から内側に向かって集めることでテンションを統一するように工夫しており、糸が長くなることで生じる外側のズレのため10mごとに紙を挟み込みます。これは織る時に糸切れした場合、糸を結び直しますが、10mごとに印があることで周違いの結びミスを減らすためです。

 

織物の元のなる経糸。これが機屋さんの織機にかかるわけですが、整経の速度をあげれば効率は良くなる一方で、糸切れの原因や後の工程のリスクになります。

 

 

前の糸に次の糸を繋げる工程。結ぶとダマが大きくなるので、手で撚ることで繋ぎます。素人ではどこに糸があるかわからないような中、驚くほどのスピードで次々に掴んで撚っていきます。

 

「下が良くないといい布にはならない。」

 

最終の織物にも影響する整経でも細部まで気が使われています。それでも糸切れをゼロにはできないので、糸が切れた場合は選別し、柄の中や、端の部分など目立ちにくい場所に使うよう調整しています。

 

 

 

 

機織り 刑部(オサカベ)

 

全ての工程を終えて、いよいよ織りです。刑部さんは、生産量の約90%がキュプラ(ベンベルグ)という機屋さんで、ジャカードとドビー織機を使用しています。

 

前の工程を含めた「織る」までの準備も大きく仕上がりに左右するため、ここでもやはり経験と知識が必要になります。また毛羽立ちやすいため、糸の当たる所には細心の注意が必要です。天気によっても糸のテンションが変わるため、手で触って調整しながら織り進めます。

 

 

ひときわ大きい電子ジャカード。ジャカードはこのほかに紋紙、ペーパーと3種類の織機を使い分けます。

 

 

特に富士吉田が得意とする先染めは糊を使わないので、風合いが柔らかく、色の深みや表現力が最大の魅力です。

 

 

糸染めから整理加工まで 富士セイセン

 

織物の色味の決め手となる染色と、生地の肌触りや風合いを仕上げる整理加工を担います。

 

 

糸染め

 

小ロットに対応するかせ染めと、チーズ染色に対応しており、それぞれに知識と経験を必要とします。キュプラ(ベンベルグ)の特徴として豊かな発色がありますが、その反面、染着が良すぎるという加工の難しさにも繋がります。

 

 

チーズ巻きは1本400gとそこまで大量ではないものの、キュプラ(ベンベルグ)の染まりやすい性質と機械の構造上、染色の濃度の内外差が生じやすく、糸が崩れるくらいソフトにチーズを巻く必要があります。これもキュプラ(ベンベルグ)特有の工夫で、他にも、かせに比べて乾燥が高温になるため、必要な水分量を戻すエイジングという工程には丸2日かかります。

 

 

 

ソフトに巻かれたチーズは、指で押せるほど。この柔らかさが染めムラを無くす工夫です。

 

かせはさらに繊細な扱いが必要で、引っかかったりしないよう、一年中半袖で、ボタンのない服を着て行います。人の手で1つ1つかけるところから始まり、最後の乾燥まで人の手で行いますが、簡単そうに見えて、手先の感覚が必要な熟練の技があってこそ成り立つ工程です。

 

 

後加工

 

キュプラ(ベンベルグ)のドレープ性や吸湿性を活かしつつ、裏地であればすべりがよくなるよう加工を施します。柔軟剤や形態安定、滑らかさをあげる加工がメインですが、滑脱などしないよう、柔らか過ぎないように仕上げる、紙一重の調整が必要になります。

 

ただ、同じ本数・密度であれば柄が違っても一緒に加工できることが産地の強みで、異なる機屋さんの生地が同じ加工場にたくさん並ぶのは富士吉田ならではの光景です。

 

 

「糸が他に比べて手間もかかる繊細な素材。職人じゃないとできない。」

 

同社にチーズ染色機が導入されたのは2013年のこと。合理化によってキュプラ(ベンベルグ)が作りやすい環境になり、データや知識を蓄積しています。また、技術者を招いた定例会も開催しており、分業では知り得なかった情報収集や、課題の共有をすることで日々改善をしています。

 

おすすめの裏地をピックアップ

 

 

ACC003 先染めキュプラ(ベンベルグ®) ペイズリー柄 大(https://www.textile-net.jp/shopdetail/000000360283/

クラシカルで有機的なペイズリー柄を華やかにレイアウト。

 

 

ACC001 先染めキュプラ(ベンベルグ®) エンブレム柄ジャカード(https://www.textile-net.jp/shopdetail/000000360275/

1930年代のクラシカルな裏地を現代風にアレンジしたエンブレム柄。

 

高級裏地として人気のキュプラ(ベンベルグ)。当然、素材としての機能や肌触りの魅力もありますが、その裏には、繊細な素材がゆえの多くの工夫と職人の技がありました。

 

ポリエステルに比べて高価になるものの、最近ではオーダースーツのオプションで選ぶ方も多く、さりげない個性や特別感の演出、服そのものの格をあげるデザイン性のある素材といえます。

 

 

 

◎室谷株式会社について

衣料品の材料となる裏地、芯地から釦、ファスナー、縫い糸や、ラベル、ハンガーに至るまで全ての資材を提案販売していく総合商社。

 

中でもメンズスーツを中心に、コート、カジュアルジャケット、パンツ、レディーススーツなど幅広いアイテムの「副資材」を取り扱い、メンズスーツ向けでは業界シェアNo.1。洋服にとって着心地を左右する重要な存在である副資材を、豊富なストックを活かし、機能性や時代性を取り入れたオリジナル商品も含めて提案しています。

 

室谷株式会社トップページ(https://contents.textile-net.jp/information/murotani/

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